不動産を相続した場合、被相続人から相続人へ所有権が移転した旨の所有権移転登記を行います。
所有権移転登記は相続が開始した後、遺産分割協議によって最終的な相続人が確定する前にもすることができますが、二度手間になるため、特に必要がなければ遺産分割協議後に行います。
登記の申請は不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。複数の不動産で管轄が異なる場合はそれぞれの法務局ごとに申請をします。
以下では遺産分割協議に基づいて所有権の移転登記を申請する場合の手順を参考事例にそって解説します。遺産分割協議が成立し協議書が作られていることが前提となります。
参考事例
被相続人甲野太郎には相続人として妻の甲野花子と長男の甲野次郎がおり、遺産として自宅として利用していた土地建物が残されていた。相続人両名の間で遺産分割協議を行った結果、この土地建物は甲野花子が単独で相続することになった
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遺産分割協議に基づく所有権移転登記 |
作成する書類 |
登記申請書 |
申請人 |
不動産を取得する相続人 |
申請先 |
不動産の所在地を管轄する法務局 |
添付書類 |
相続関係を証明する戸籍類
被相続人の住民票の除票
申請人の住民票
相続関係図
遺産分割協議書
申請人以外の相続人全員の印鑑証明書
固定資産評価証明書 |
登録免許税 |
不動産の価格の1000分の4
(不動産の価格は固定資産評価額になります) |
◆ @ 物件の確認
登記申請をする前には、不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)で物件の内容、所有者等について確認します。
従来より登記簿謄本と呼ばれていたものは、登記事務のコンピュータ化に伴い登記事項証明書という名称になっています。現在ではほとんどの法務局がコンピュータ化されていますので、以下の解説では登記事項証明書で統一して表記します。
登記事項証明書は法務局でとることができます。交付手数料は1通600円で収入印紙を貼って納めます。請求用紙は法務局に備え付けのものを使います。
登記事項証明書のチェックポイント(重要) |
所有者 |
甲区の最後の欄に所有者として被相続人の名前が書かれていることを確認します。共有の場合は申請書が当サイトで紹介する作成例と異なります。
また、甲区に仮登記などの見慣れない登記が入っている場合は専門家等に相談してください。
所有者の住所の記載が被相続人の最後の住所地と異なる場合は、過去に被相続人がその場所に住んでいたことを証明できる戸籍の付票等の添付が必要になります。 |
登記事項証明書に甲区があるか |
登記事項証明書に甲区の記載が無く、表題部に所有者として被相続人の名前が記されているだけの場合、申請する登記の種類が当サイトで紹介するものと異なりますので注意してください。 |
乙区 |
把握していない抵当権、賃借権などが登記されている場合は、事情に詳しい方や専門家に相談してください。 |
管轄法務局 |
登記事項証明書の一番後ろに管轄の法務局が記載されているので、これを確認します。登記の申請はこの管轄法務局へします。管轄が同じであれば複数の不動産を1通の申請書でまとめて登記申請することができます。登記事項証明書は管轄外の法務局からでもとれます。 |
◆ A 添付書類の収集・作成
添付書類 |
相続関係を証明する戸籍類 |
相続関係を証明できる範囲の戸籍・除籍・原戸籍です。具体的には下の表を参照。 |
被相続人の住民票の除票 |
被相続人の住所地が登記簿に記載の所有者の住所と一致するか確認するために添付します。一致しない場合は除籍の附票等で確認します。住民票の除票は本籍地の記載のあるものを取得します |
申請人の住民票 |
申請人の住所地を証明するために申請人の住民票か戸籍の付票を添付します。住民票等の取得日に制限はありませんが、現在の住所が変わっている場合は取り直します。 |
相続関係説明図 |
戸籍類の原本還付を受ける場合は相続関係説明図を作成して添付します。ワープロ等で作成します。手書きでも問題ありませんが、見やすくなるように心がけましょう。 |
遺産分割協議書 |
相続人全員の実印のあるもの。 |
印鑑証明書 |
申請人以外の相続人全員の印鑑証明書を添付します。遺産分割協議書に押印された実印が本物であることを証明するためです。印鑑証明書の取得日に制限はありません(1年以上前に取得したものでも大丈夫)。 |
固定資産評価証明書 |
登録免許税の額を計算するために添付します。市区役所・町村役場の市税課、固定資産税課などで発行してもらえます。1通200〜300円程度の手数料がかかります。取り扱っている部課名や手数料は各市区町村により異なりますので、ホームページや電話等で確認してください。
また、評価証明とは別に登記専用に固定資産評価額を記載した書面を無料で発行してくれる市区町村もあります(この登記専用の書面は原本還付ができません)。 |
◇上記表の添付書類のうち相続関係説明図以外のすべての書類のコピーを各1枚ずつとります。
相続関係を照明できる範囲の戸籍 |
常に必要なもの
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍・除籍・原戸籍の謄本
・相続人全員の現在の戸籍謄本 |
被相続人の子またはその代襲者が相続人となる場合
・すでに死亡している子(及びその代襲者)がある場合はその子(及びその代襲者)の出生から死亡までのすべての戸籍・除籍・原戸籍の謄本 |
被相続人の直系尊属が相続人となる場合
・すでに死亡している子(及びその代襲者)がある場合はその子(及びその代襲者)の出生から死亡までのすべての戸籍・除籍・原戸籍の謄本
・相続人よりも下の代の直系尊属がすでに死亡している場合はその死亡が記載された戸籍の謄本 |
被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合
・すでに死亡している子(及びその代襲者)がある場合はその子(及びその代襲者)の出生から死亡までのすべての戸籍・除籍・原戸籍の謄本
・被相続人の父母の出生から死亡までのすべて戸籍・除籍・原戸籍の謄本
・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、原戸籍)謄本
・被相続人の兄弟姉妹ですでに死亡している者が有る場合はその者の出生から死亡までのすべての戸籍・除籍・原戸籍の謄本
・被相続人の兄弟姉妹の代襲者ですでに死亡している者が有る場合はその者の死亡の記載のある戸籍(除籍・原戸籍)の謄本 |
◇ 相続関係説明図の作成例
ポイント:
・妻、長男など、被相続人との関係を記載します
・登記を申請する不動産を取得する人に「相続人」、取得しない人に「遺産分割」と記載します。
・他の財産を相続していたとしても、今回登記申請する不動産を取得していなければ「遺産分割」です。
・印鑑は認め印でかまいません
添付書類は相続関係図を作成するなど所定の手続をとることで原本還付を受けることができます(添付書類の原本を返してもらえる)。逆にいうと原本還付の手続をしないと戸籍類や遺産分割協議書も返してもらえません。 原本還付を受けない場合は、あらかじめ書類を保存用と登記用に複数用意するなどしておきましょう。
ここでは原本還付を受けることを前提とした書類作成を説明しています。
◆ B 申請書の作成
◇ 登記申請書の作成例
登記申請書のチェックポイント |
上部の余白 |
申請書の上部は申請時に受け付けシールを貼るため、6pほど空けておきます。 |
登記の目的 |
『所有権移転』と記載します。 |
原因 |
『平成25年○月○日 相続』のように書きます。日付は被相続人が亡くなった日です。申請日や遺産分割協議の日ではありません。 |
相続人 |
不動産を取得する人の住所・氏名・連絡先を記載し、押印します。印鑑は認め印でも大丈夫ですが、登記完了後の受取時に必要になるので、無くしたりしないようにします。冒頭には作成例のように、被相続人の氏名を括弧付きで書きます。連絡先には日中、連絡が取れる電話番号を書きます。申請書類に不備があった時などに法務局から問い合わせが来ます。 |
添付書類 |
作成例のように書いてください。 |
申請日 |
申請日と申請先の法務局名を書きます。支局や出張所の場合は支局、出張所名まで書きます。(例)『名古屋法務局 一宮支局』 |
課税価格 |
課税価格は固定資産評価証明書に記載された固定資産の評価額です。作成例のように数字の前後に『金』と『円』を書きます。 |
登録免許税 |
相続を原因とする所有権移転登記の登録免許税は課税価格の1000分の4です。課税価格を基に算出した金額を書きます。課税価格と同様に、数字の前後に『金』と『円』を書きます。 |
不動産の表示 |
作成例の順番に従い、登記事項証明書のとおりに書きます。不動産番号も登記事項証明書に載っています。『u』は『平方メートル』と書いてもかまいません。不動産の表示の最後には『以上』と書きます。 |
収入印紙 |
申請書の次に収入印紙を貼り付けた台紙を入れます。台紙は白紙でかまいません。申請書と台紙を重ねて(さらにその他の添付書類を重ねて)左側をホチキスで綴じ、綴じ目に申請書に押したのと同じ印鑑で契印を押します。
収入印紙には消印は押してはいけません。消印のあるものは使用できません。消印は法務局が申請受付時に押します。 |
その他 |
申請書が2枚以上になる場合は収入印紙の台紙と同じように、綴じ目に契印を押します。
登記識別情報の通知を希望しない場合は申請書にその旨を記載します。 |
◇申請書類の綴じ方
「申請書」と「収入印紙台紙」で第1グループ、「相続関係説明図」を挟んで、各種添付書類の写し(コピー)が第2グループというイメージです。「申請書」から最後の「固定資産評価証明書」の写しまで、すべてまとめて左側をホチキスで綴じます。「申請書」と「収入印紙台紙」の綴じ目に契印を押します。また、「申請人の住民票の写し」から「固定資産評価証明書の写し」までの綴じ目に契印を押します。
申請書類の並び順は必ずこのとおりでないといけないというわけではありませんが、上の図では筆者の経験上、一般的と思われる順序で並べてあります。
第2グループの最後のページ(上の図では「固定資産評価証明書の写し」)の裏に「右原本は還付しました。」の文言とともに申請人の住所・氏名を記入し、申請書に押したのと同じ印鑑で押印します。
(固定資産評価証明書の写しの裏面)
右原本は還付しました。
名古屋市中区○○町一丁目2番地
甲野花子 印
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第2グループで写しを取った添付書類の原本はホチキス、綴り紐、クリップなどでまとめます。
最後にホチキスで綴じた申請書一式と添付書類一式を重ねてクリップなどで止めて申請窓口に提出します。
◆ C 申請
申請書と添付書類を法務局の不動産登記の受付へ提出します。 受付がされると登記の完了予定日が書かれた紙をもらえます。
完了予定日は申請日から1週間から2週間後くらいです。内容に問題がなければ完了予定日までに登記が完了します。
申請内容や添付書類に不備がある場合は法務局から電話で連絡があります。書類の訂正や追加で不備を修正できれば(これを補正といいます)、登記処理を進めてもらえます。補正できなければ、申請を取り下げなければいけません。
登記が完了したら法務局へ書類を受け取りに行きます。受取時には申請書に押したのと同じ印鑑が必要です。登記が完了すると登記識別情報がもらえます。従来、権利証と呼ばれていたものが登記事務のコンピュータ化にともない新しくなったもので、権利証同様、非常に重要な書類です。大切に保管してください。
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